2014年3月4日火曜日

とんぷく

by 梅津志保


風邪をひきました。病院で処方された薬の袋はふたつ。ひとつはシンプルに「薬」、もうひとつには「とんぷく薬」と記されていました。 

風邪で朦朧とした意識の中「とんぷく」という言葉をキャッチしました。それは、私の中では「とんぷく」という言葉は、明治、大正、昭和初期の小説の中で、病気で寝込みがちな主人公の枕元に「とんぷく薬」の袋が置かれている(その横にはキレイなガラスの水差しが置かれている。)、もしくは、昭和の初めに建てられた、木造の小さな診療所の窓口から看護婦さんが「お大事に。」と言って「とんぷく薬」の袋を手渡す、とにかくそんな懐かしいイメージを勝手に持っていたのです。そう、私は、油断していたのです。平成26年、初めて「とんぷく」という言葉と自分が向かい合う日が来たのです。 

はじめは、ぼんやりとした頭の中で「とんぷく」という文字の持つ、どこかのんびりとした、平仮名のゆったりとした響きが面白く、薬袋を見るたび頭の中で「とんぷく、とんぷく」と呪文のように繰り返していました。また、「頓服→頓挫、あぁ~」とネガティブに連想し出し、今思えば、少々危ない一線を漂っていました。 
そのうちに、昼間のあたたかい部屋で寝ている幸せや薬袋にあたる日光の清潔な明るさを心地よく思えるようになりました。自分の心と身体が、風邪という悪事から抜け出し、気が満ちて、心の広がりを感じ、回復に向かっていることを実感したのです。 

今回の私の風邪は、とんぷく薬だけで治ったのではなく、「とんぷく」という言葉にも助けられ治ったように思います。文学、詩、平仮名、片仮名の言葉が持つユニークさ、力強さ。
自分の身体が弱っている、そんな時こそ、心には文学や詩の栄養ドリンクを注入したいものです。

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