2014年11月24日月曜日

抹茶と和菓子のかけ算

by 梅津志保


以前、会社の茶道部に所属していたことがある。

作法は難しく、何度も先生に叱られて、へこんだ日もあった。

でも、季節毎の和菓子の美しさが毎回楽しみであった。春は新緑の明るい緑の葉、秋は深みのある赤い紅葉など、抹茶の緑とお菓子の色のかけ算が新橋のビルの一室に確かに季節の訪れを告げていた。お茶の渋さとお菓子の甘さのかけ算も最高である。

「豆句集 みつまめ」その5粒目(2014年立冬号)が完成した。自分の作品をふり返ると「視覚」から入ったものが多い。もっと味覚や聴覚、五感を研ぎ澄ました作品ができないものかと思う。
明日は季節を見つけに、季節を味わうために和菓子屋さんに行ってみよう、そして静かに和菓子と向き合ってみよう、そんな風に思う。

2014年11月8日土曜日

届かない心まで

by 井上雪子


朝、起きてストーブをつけて机に向かう。 まだ、家族は眠っている、そんな この時間に読みたいと思った歌集を開く。



「突き通すやさしさなりき生きぬくことをやめた透明」

「純粋はかがやく色かなすきとおる風が捨てきた光かな」

ヴァン・ゴッホの眼を見つめる、 どこまでも見つめ返されながら佇む。 「ともしび色」

『坂となる道』、 誰も通っていない朝の、 生れたての光みたいな歌たちが静かに並ぶ。 ゆっくりゆっくり、 大切なお菓子の箱を開けるように、 少しずつ読んできた。

「もうだれも信じることなく金魚鉢胸鰭のよく動く」

「白百合のほのかにつたう夕暮れの厨に匂う六月雄蕊」

「うるりこ」(細魚、メダカの古語)、「六月雄蕊」、 歌の途中、どこで切っても、 選び抜かれた言葉はそれはそれだけで独立して美しく、 いくつもの重なる思いが仄かに放たれ、 ふと異なる光のような複雑さを味わうための時間の中に ひとを立ち止まらせようとする。

あとがきには、 「その佇むときを、佇む力を私は持ち続けたいと思う。」とある。 声高になることなく、苦しさや悲しさから逃げないその意志の、 優しさであり、激しさである。

「傘さしかけてとおく夜の空をみるひとはやさしきことばを待てり」

どうしても届かない心に贈りたい歌がいくつもいくつも見つかる。

お会いしたことはないけれど、 みずほさん、と発音したくなる、 やわらかな言葉を真っ直ぐに力にして届けてくださろうとする作者の、そのていねいな時の過ごし方を思う。

文字通り小走りで職場を過ごす私なのだが、 佇むというちからを深く重く、じぶんのなかに置きながら、 今日こそはゆっくり息をしよう。

高橋みずほ『坂となる道』(沖積舎、2013年)。「ともしび色」「うるりこ」「六月雄蕊」は章のタイトル。