2015年6月1日月曜日

一気読みする深さ、立ちどまる遠さ

by 井上雪子


過日、東京神田神保町、沖積舎OKIギャラリーで開催されていた『夏石番矢自選百句色紙展』にお伺いした。 豪快な墨筆、地球という星を大地として把握できる感受性、都市固有の匂いを明らかに漂わせている詩性、俳句という古びたものの新しいかたちに見飽きることはなかった。

鎌倉佐弓さん、伊丹啓子さんがいらっしゃって柔らかなトーンでお話をしてくださったり、与謝野晶子をはじめとする直筆の歌や句を拝見したり、緊張していた気持ちをおおきな時間と空間に連れ出していただいた。思い切ってお伺いして本当に良かったと思う(ありがとうございました)。

家に帰ってから、一気読みしたのが『写俳亭俳話八十年』(伊丹三樹彦)。ご伴侶の公子さんを看取られたお話から始まり、ご幼少時代の思い出(可愛らしい作文!)、日野草城先生のこと、見開き一頁に事物に即して思い出を語っているような文章から、悲しみや寂しさ、楽しさや不思議さ、何かが真っ直ぐに胸の奥へ豊かにやって来る。言い過ぎず、言い足りないことがない。

一方、ページを繰る手が止まってしまったのは、句集『海はラララ』(鎌倉佐弓)のあとがき。 感動を大切に、季語を大切に、言葉をていねいに・・・と歩んでこられた佐弓さんの思いに自分を省み、「私はどんな俳句を詠みたいのか、私らしい俳句って何だろう。」と、突きつめていく純粋さに問いかけられ、途中で何度も読みやめて、俳句について考える時間を持つ。びしっと決まった俳句も素敵だが、素顔を見せてくださるようなあとがきから深い時間を頂いたように思う。そしてまた俳句のページに戻れば、「福寿草だよね下向いてるけれど」。なんて自由な心もちであること。




「夏石番矢自選百句色紙展」
OKIギャラリー千代田区神保町(沖積舎)
平成27年5月19日(火)~28日(木)

伊丹三樹彦『写俳亭俳話八十年』(青群俳句会、2015年)

鎌倉佐弓 句集『海はラララ』(沖積舎、2011年)
 

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