2014年7月8日火曜日

江ノ島の日

by 西村遼


江ノ島に行きたくなる日というものがある。
よく晴れた日、しとしと雨が降る日、忙しい中のたまの休み、ただ退屈な時、と外的にはいろいろあるが、とにかくふと自分の中で条件がそろい、「江ノ島でも行こうかな」という気になる。

私の自宅から江ノ島までは車で二十分、バスと江の電を使っても一時間しかかからないが、その土地の持つ空気感はまるで異なる。他の地域の方には失笑されることと思うが、なにしろ「東洋のマイアミ」を勝手に名乗っている湘南海岸のことだ。どことなく南国的な、それでいて醤油っぽくもある香りが漂い、次第にこちらの気持ちもユルくなってくる。

ジブリ映画的な異界への雰囲気をまとった大橋を歩いて渡り、島内のキツい坂道をアトラクションのようにして登る。嫉妬深い弁天様やら大きな財布のご神体やら、神様までも俗っぽい。

この島自体がどことなく箱庭めいて見えるが、同時にこれ以上なくからっとした生活臭もする。ハレの空気がどこまでも薄く引き延ばされて日常に膜をかけているような場所だ。

私は島の空気を吸い、何か考えているような顔をして実際はほとんど何も考えたりせず、適当にぶらついてから帰る。名残惜しいとかもっといたいという気分はほとんど起こらない。江ノ島という土地は本気で観光客を呼び込もうとしている感じがせず、来るもの拒まず去るもの追わずという顔をしているからだろう。

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