2015年12月7日月曜日

空飛ぶ性善説

by 井上雪子


20年ほど前になるが、真冬のフィンランドにオーロラが観たくて行ったことがある。曇りばかりの、SUOMIというその国の冬の夜は、宇宙的なその光をやすやすとは見せてはくれなかったけれど、長く心に残るあたたかさをたくさん持たせてくれた。たとえばそのひとつが、国内線旅客機のスイングドア。

操縦席と客席の間は1メートルほどの木の板のような、簡易なスイングドアで仕切られているだけ。子どもがそこに立てば、パイロットと同じ目線で進行方向の空を眺めることができる。マレーシアとケニアしか行ったことがなかった私とて、これにはちょっと驚く。性善説そのもの、あまりの無防備さ。しかし、子どももお年寄りも、本当に大切にされているのが、小さな事柄から見て取れた。

海外旅行がどこであれ、心配を伴うことになってしまった今、フィンランド国内線のあのスイングドアが妙になつかしく、あれはあのままでも大丈夫な世界であってほしいと思う。これが先進国だと思わされたヘルシンキの洗練された文化の根、民族的には黒髪の、アジアに親しい血族。北極圏のその町で乗せてもらったカローラ、俳句を知っていたタウン誌の編集者のおじさんは今も元気だろうか。そしてサンタクロースは、今年も 赤いお鼻のルドルフを呼びながら旅の仕度を始めただろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿