;by 井上雪子
「ダンサーは選手ではないし、芸術は競技ではない」。
「日本人は一体いつまで世界で闘って勝つということばかりに重きを置き続けるのでしょうか」 、
「(バレエという芸術においては)ストイックな肉体の修練に加え、天性の際立った個性が欠かせません」。
7月26日、朝日新聞オピニオン欄、バレエ・ダンサーであり芸術監督を務める熊川哲也さんのインタビュー記事の言葉たち。
バレエという芸術の本質、その未来のビジョンを真っ向から見据たブレのないその言葉に驚きながら、バレエという語を音楽・文学・俳句などと置き換えたりしながら、何度も読みました。
私はいかなる未来に向かうのか、表現者としての豊かで厳しい自覚は、序列・順位づけの文化に翻弄され、貧しく細っていくバレエ/芸術の本質への、率直であるゆえに痛烈な問いかけと思います。
ワールド・カップにしろ、オリンピックにしろ、もはや勝つことだけを目的とした格闘技めいて、おおらかな他者への共感や尊敬や笑顔はリングの外に出てしまった気がしますが、
「そもそも芸術というものは、スポーツと本質的に異なり、順位があってはいけない世界です」という熊川さんの言葉には温かな力があり、歩き出すための力になり、勝ち負けを超えるものへと心がひろがります。
「どれだけ個性豊かなダンサーとして大成しているか」、バレエのこれからを豊かにするために提示された判断の軸はとてもシンプルで深い含蓄。
人の身体、人間の思いの力を知り尽くしたひとのまなざしは明るく、厳しく、青空のように透明です。
そして/もちろん、インタビューの結びの言葉は、とても謙虚です。 「偉大な作品の数々、尊敬する先人たち、支えてくれる周囲の人々、すべてに対する感謝の心が次のステップへと導いてくれると信じます」 。
本当にかっこいい。
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