2015年5月18日月曜日

若冲、何を描いたのか

by 井上雪子


港区六本木、サントリー美術館、「若冲と蕪村」展に行ってきた。 20年か30年か昔に感動した若冲だが、記憶もさすがに薄れていた。今回、あらためてその表現の圧倒的な凄さにう~ん、と唸ってしまった。

ひとつの作品、対象に注がれる天才的な繊細さと大胆さ、写実とデザインを自由に行き来する技術と表現欲、その時間と集中力、それが何枚も何枚もあるということ。 見たことのないものを描き上げようとする憑依のような妄想(白象の睫毛や虹のような牙?舌?)には、笑ってしまう楽しさが漂う。驚嘆と感動、そして謎。

このひとは何を描いているの?鶴だよ、鶏だよ、そうだよ。けれど、どれほどハイビジョンな鶏の写真、あるいは本物がいたとしても、何時間も観たいだろうか。もしかすると写実的にうまければうまいほど息がつまる様なつまんなさとは別のどこか、そこに若冲の凄さ、面白さがあるのかと思う。が、それが何から来ているのか、遂にわからないまま、出口に向かう。

視ることとは、描くとは、表現するとは、こういうことか。 言葉にはできないけれど若冲の眼が瞬間に掴み、若冲の指、若冲の精神力がここに描こうとした何かが画紙に生き続ける。 答えるのは言葉じゃなくて、筆の跡、墨の色、顔料の滲み、そして描かなかったもの。



「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」展
サントリー美術館
平成27年3月18日(水)~5月10日(日)


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